『人を食う』と言っても別に食人鬼の話じゃねぇ。
『人を食ったような物の言い方をするな』
ウチのオカンによく言われるセリフだ。
人の言い方を気にするA型はどうもいけねぇ。
俺は人を追い詰めて試したりするのが好きだ。
だからその時の言い方が時々、人を小バカにしたように聞こえるようだ。
いや、実際小バカにしてるんだが。
「ここまで追い詰めればこいつはやらざるを得ないだろう。」
「こいつの性格からして後には引けなくなるだろう。」
「こいつがうっかり言った事を訂正させなくすればいい。」
そんな事ばかり企んでるからこう言われるんだろう。
『後に引けなくさせる。』
なんてステキな響きなんだろう。
そいつの性格を十二分に把握していて、
どこまで意地を張るかが完璧にわかってないと出来ない事だ。
この辺に自分の磨きのかかった才能を感じる。
う〜ん、自分大好き。
相手の意地を利用して自分に都合の良い方向に持っていく。
これで何度オイシイ目にあった事か。
口が上手くて頭が切れないと出来ない事だ。
これこそが俺が求めて止まなかった能力。
う〜ん、下卑た人間だ。
最低なトコが最高だ。
それでいてフォローも心得ているから最終的には『憎めない人間』になる。
う〜ん、どこまでも悪党だ。
しかし、フォローをするのも特に相手に悪い気がするからではない。
後々まで自分にとって都合が良くなるからだ。
多少の恨みを買ったとしても、こちらが笑顔で話し掛けたりしていれば、
相手もそこで『自分だけ無愛想なのはちょっと…。』とか思うのだ。
そこを突いてやれば問題は解消。
そうする事で相手が一度でも俺に対して、
『こいつには敵わない』と思えばそこから先は二度と俺に逆らおうともしなくなるのだ。
俺はそうやって自分の軍門に下ったヤツには優しくする。
そこからは大事に扱うようになるのだ。
ただ、相手はそれと逆で、常に俺の反応を伺う事になる。
安心してたらいつ食われるかわからないからだ。
そこで俺は施しを与える。
その時に施すモノは何でも良い。
そいつが欲しがってた情報を与える事でも良いし、
相手の悩みの相談に乗って解決してやる事でも良い。
飯や酒を奢ってやるのでも良い。
その目的は『オマエは身内だから大事にするんだ。』と教える事と、
俺に対して何かをしてもらったという恩を感じさせる事だ。
それだけで相手は俺に対して良い印象を持つものだ。
そしてそれは突然に行った方が良い。
思いつきでやっただけだと思わせた方が相手もすんなり受け入れるからだ。
俺の中では既に出来上がってるプランを実行しているだけなのだが、
相手の側からすれば俺がそこまで企んでいる事も見通す事は出来ない。
こうやって俺は人を食っていく。
今までもそうしてきた。
これからもある程度はそうしていくだろう。
しかし、最近はどうも調子が悪い。
周りに悪党が居ないのだ。
俺は小悪党が近くに居る時に最大限の力を発揮出来る大悪党だ。
相手の悪のオーラを自分に取り込んで増幅させるようなイメージでやってきた。
なのに今は会社の同僚も友人も、みんな良いヤツばっかりだ。
これでは俺もうっかり『善人』になりかねない。
こうしているうちに結婚して子供が出来て落ち着いちゃって丸くなるんだろうか。
俺はいつでも研ぎ澄まされた感覚を持ち続けたいのに。
でも、奥さんが居て、子供が居て、いつもノンビリ過ごしてる、そんな生活も悪くは無い。
いや、むしろ好ましいかもしれない。
結婚願望は人の10倍はあるから。
あぁ、こうやって『父親』になっていくんだな。
ウチの親父を見ていて何となくわかったよ。
俺も良い親父になれそうだ。
2005/04/23
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