俺は小さい頃、白線の上を歩くのが好きだった。
それをやり始めると意地でもその白線上を通っていた。
白線が切れていてそれ以上進めなくても
出来る限り諦めるのは嫌だった。
線が途切れて進めなくなるとどうするか?
1・ガードレールの上を進む。
2・ちょっと戻って他の白線を探す。
3・誰かにおぶってもらう。
4・車の上に乗ってさらに先に進む。
5・金網に登る。
などである。
では、どうしたらやめるか?
1・他にもっと興味を引くものを見つける。
2・誰かに押されるなどしてジャマされる。
3・車が来る。
4・親に怒られる。
5・うっかり線から踏み外す。
などである。
かなり夢中でやっているときは周りが見えなくなる。
そしてこの周りの見えないバカは
小学校3年生の時にとんでもない事件を起こす。
最初、石で地面にガリガリと線を書いていた。
夢中になってきた。
マンホールを発見。
マンホールもガリガリ。
丸いからグルグルガリガリ。
よしよし。次のマンホール行こう。(ゴキゲン♪)
次のマンホール。これもグルグ・・・・ガツッ。
・・・車のタイヤがジャマでグルグル出来ないぞ。ムスッ。
まあいいや。タイヤにいこう。グルグル。(ゴキゲン♪)
タイヤ完了♪次は車を一周だ〜♪
グルグル〜〜〜〜〜♪ふ〜。
・・・・。
なにしてんの?おれ。
サーッ・・・・(血の気が引いた音。)
やばい。やばい。やばいって。
「だ、大丈夫さ。黙ってればバレないさ。」
しかし、このことはすぐに広まる。
じつは新車だった。
しかも同じアパートの人の。
その日のうちに近所中に伝わっていた。
おかんは俺を問いつめた。
「まさかうちの子じゃないと思うんだけど、あんた知ってる?」
俺は即答した。「知らないよ。」
バレたらまずい。怒られる。今までないくらいに。
ひょっとしたら追い出されるかも・・・
このとき兄貴は疑われなかった。
絶対なる信頼があったからだ。
信頼・・・俺が持ってないものの一つだ。
「誰がやったんだろうねえ・・・」
よかった。バレなかった。
しかし、ひょんなところでバレるものだ。
そのころ我が家は生まれたばかりの弟を家族みんなが溺愛していた。
当然、俺もだ。
おかんがふと、こう言った。
「傷つけられた車、新車だったんだって。
人間で言えば生まれたての赤ん坊と一緒だよ。
かわいそうに。」
俺はこれを聞いて大泣きした。
自分の傷つけた車と当時赤ん坊だった弟がかぶって見えたのだ。
自分が赤ん坊を傷つけた。
そう思うと泣かずにはいられなかった。
俺は全て白状した。
そして、泣いて謝りにいった。
その夫婦は子供のしたことだから、と許してくれた。
数日後、あの車はどうなったのかと親に聞くと、
「もう修理に出したって。お金も払わないでいいって
言ってくれたんだよ。感謝しなさい」とのこと。
そして、時は流れて高校2年の夏。
親と話していて、なぜかその事件の話になった。
俺「あのとき、よく許してくれたよね。
金も要らないとか言ってさ。
本当にいい夫婦だったねえ。
子供にやさしい人だったなあ。」
母「15万よ。」
俺「へ?」
母「あの時かかったお金。」
親の心子知らずの意味が身をもって理解できた。
有也はレベルが上がった。ちょっと涙がでた。(笑)
「そのときにゆってよ・・・」(心の叫び)
そうやって、幼いおれが金の心配をしないように
気を使ってくれてたんだね。
大好きです。そんなうちの親。
2002/05
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