俺のたわごと

ま、たわいのないことばっか書いてますけど暇なら見てね。
日々の考え事、昔の事などが書いてあります。

 427   あぁ、愛しの善福寺川。
 

今、俺の住んでる所の近くを神田川が流れている。
南こうせつの『神田川』の舞台はここから少し下流に位置するらしい。
 
神田川というのは善福寺川と神田上水が合流して神田川になるのだ。
杉並育ちの俺には神田川よりもその支流である善福寺川ってのが懐かしい。
 
 
小学4年の夏休みのある日。
 
兄貴は「おい、善福寺池に行こうぜ。」と言い出した。
善福寺池ってのは善福寺川の水源で、杉並区の北西にある池のことだ。
 
「何をしに行くの?」と聞くと、「エビ釣りだ。」と言う。
兄貴が言うには、善福寺池にはエビが棲んでいるらしい。
 
さらに「エビを捕まえるための道具も作るぞ。」と言い出した。
田舎の川で魚捕りに使われる、ウケビンという道具がある。
兄貴はペットボトルでそれに似たものを作る気でいるらしい。
 
大きめのペットボトルを少し加工して、
獲物が入りやすく出難い形にして、その中にエサを入れ、
エビが入っていくのを見計らって引き上げるのだ。(上の画像参照)
 
俺はその話を聞いて面白そうだと思い、OKした。
しかし、俺は善福寺池に行った事が無かった。
 
「どうやって行くの?」
「チャリで善福寺川をさかのぼっていけばいい。水源が善福寺池だから。」
 
「遠くない?」
「だから朝早く出るんだ。6時半には出るぞ。」
 
「わかった。」
「よし、そうと決めればすぐに準備だ。」
 
まずはペットボトルを加工する作業だ。
リサイクルごみ置き場から大きいペットボトルを拾ってきて水道で洗う。
それを加工するのは兄貴の仕事だ。
 
カッターで上半分を切り取り、逆さにしてはめ込む。
それを水の中でもはがれないようにテープで固定する。
これだけで完成だ。
 
「…これ、水の中ではがれねぇかなぁ。」
「大丈夫じゃない?」
 
「…ま、いいか。じゃあエサ買いに行くぞ。」
「うん。」
 
俺たちは商店街に向かって歩いた。
 
「エサって何を使うの?」
「ん?パンの耳だよ。」
 
「パンの耳?」
「あぁ、パン屋で30円くらいで袋いっぱいくれるんだ。」
 
パン屋で「スイマセン、パンの耳を分けてください。」と言うと、
無愛想なパン屋のオヤジは店の奥からパンの耳が入った袋を持って来て、
「50円。」とぶっきらぼうに言った。
 
俺は内心、『兄貴にもっと愛想良くしろよテメェ。』と思っていた。
俺はここの店のオヤジが好きじゃなかった。
俺に対して愛想が悪いのなら許せるが、
兄貴に対して無愛想な態度をとるのは我慢ならなかった。
 
 
店を出た後、兄貴が呟いた。
「前は30円だったんだけどなぁ。」
 
「あのオヤジ、テキトーに気分で値段付けてんでしょ。」
「あぁ、そうだろうな。前の方が全然多かったもん。」
 
「まぁ、これだけあれば充分でしょ?」
「あぁ、全然足りてるよ。」
 
量にして食パン2斤分くらいのパンの耳が入った袋を引っさげて、
俺と兄貴は家路に着いた。
 
 
家の前で近所の子が遊んでいた。
俺らの持っているパンの耳を見ると、「それ、何に使うの?」と聞いてきた。
面白い遊びをしそうなニオイを感じたんだろう。
 
「明日、エビ釣りに善福寺池に行くんだ。」
「いいないいな!俺も行きたい!」
 
俺は兄貴の方をチラッと見た。
 
「かなり遠いから連れて行けないよ。車とか、危ないしな。」
「ここからチャリで一時間くらいかかるんだって。」
 
それを聞いて空気を察したのか、その子は行く事を諦めた。
 
「そんなに遠いんじゃお母さんにダメだって言われる。」
「あぁ、悪いな。」
 
連れて行ってやりたいが、何かあっても責任は取れない。
そう思って兄貴は断ったのだ。
こういうトコが、近所のお母さん方が兄貴を信用するトコなんだろう。
 
 
家に帰り、例のペットボトルとパンの袋を一つにまとめて置いておいた。
 
「明日は早く出るから早く寝ろよ。」
「わかった。」
 
その日は早めに布団に入った。
それでもワクワクしてなかなか寝れなかったが9時には寝ていた。
 
 
翌朝。
オカンに鮭おにぎりと梅おにぎりを3個ずつくらい作ってもらい、
それをアルミホイルで包んで持って行く事にした。
 
そして朝日の眩しい中、出発。
「気を付けてね。」
家の前でオカンが手を振って見送ってくれた。
 
早朝の街は人が居なかった。
いつもよりのびのびと道路を使えると思うと嬉しくなり、
はしゃいで蛇行運転したり飛ばしたりしながら善福寺川に向かった。
 
善福寺川までは20分弱だっただろうか。
善福寺川沿いの道は歩行者専用になっていて車は通らないので安全だった。
それがオカンが行く事を許可した最大の理由だと思う。
 
散歩してる老人やジョギングしてるオッサンがたまに通るくらいで、
以前、通った時よりも遥かに人通りが少なかった。
 
 
和田掘公園の辺りを通った時、飛行機の形のジャングルジムが見えた。
幼稚園の時、この辺に住んでる友達と一緒に、アレで遊んだっけなぁ。
思い出して懐かしくなったりもした。
 
ここの釣り堀も懐かしい。
ゲーム機が何台かあって、沙羅漫蛇をやったっけな。
ぶっ壊れてたのか何なのか、スタートを押すとタダで出来たっけ。
 
 
和田掘公園を通り過ぎた後はすぐに交通公園。
ここでも幼稚園の時に自転車の練習をしたっけな。
係員のおっちゃんが交通ルールを教えてくれるんだ。
オカンも一緒にやった気がする。
 
この辺は子供の遊び場がたくさんで、来る度にワクワクしていた。
 
 
そんなこんなで五日市街道の辺りまで来た。
五日市街道を渡った所にミニストップがあり、
兄貴が「ちょっと寄って行くぞ。」と言い出した。
 
 
当時はコンビニで何かを買うという事も少なかった。
ましてやミニストップなんてTVでしか見た事が無かった。
 
コンビニといえばセブンイレブンだった。
当時はレジカウンターで31アイスクリームみたいにアイスを売ってたのだ。
俺はモカにカラーチョコスプレーをトッピングするのが好きだった。
ブリトーが出たばかりの頃はレンジで温めるという発想が新鮮で大好きだった。
当時はホントにセブンイレブンの名の通り、朝7時〜夜11時までの営業だった。
 
他には、たま〜に行くファミリーマート。
シャービーとかいう60円のシャーベットを買うだけだった。
やたらとキレイでそれはそれで落ち着けなかった。
 
そしてめったに行かないローソン。
店の雰囲気がやたらと暗く、思いっきり町の酒屋という印象。
せいぜい、たまにビックリマンチョコを買うくらいだった。
客が入ってるのはあまり見た事が無かった。
 
 
兄貴はミニストップに行った事があるんだろうか。
随分とすんなり入っていこうとしてるけど。
 
「オマエも行くか?」
「俺、金持ってないからいいよ。」
 
「え?いらねぇの?」
「うん。」
 
俺はミニストップの外で荷物を見てる事にした。
5分も待たずに兄貴が出てきた。
 
「何を買ったの?」
「コレ。」
 
紙袋の中を見ると銀色の紙で包んであるハンバーガーがあった。
 
「ミニストップってコンビニなのにハンバーガーが売ってるんだ。」
その時、初めて知って驚いた。
 
「俺一人で食っちゃおう。」
兄貴はそう呟いた。
 
このセリフの意味を俺はよくわかっていた。
兄貴はこう言ってわざと羨ましがらせて、俺にダダをこねさせてから、
「しょうがねぇなぁ。」と言って俺にも分けるつもりなんだ。
 
そこで俺は裏をかいた。
「別にいいよ。自分の金で買ったんだから、自分で食いな。」
 
すると、兄貴は予想通りの言葉を言って来た。
「まぁまぁ、そう言うな。オマエにも一口くれてやるよ。」
 
チャンス到来。
俺はこの時を待っていたのだ。
しかし、がっついてはいけない。
 
「え?いいよ。」
「ん?いらないのか?」
 
一度は遠慮する。
いつもならがっつく俺が遠慮する。
これによって兄貴は油断するのだ。
 
「うーん、じゃあ一口だけ…。」
 
興味の無いフリをしたのは全て計算だった。
俺は最大限に口を開けてハンバーガーにパクついた。
 
「ああ!テメェ!」
「ウヒヒ。くれるって言ったろう?」
 
「あぁ〜。俺のハンバーガーが…。」
 
兄貴の手には無残にも半分になったハンバーガーがあった。
 
 
「いつまでも過ぎた事にこだわるなよ。行くぞ。」
俺は憎らしげにそう言い放った。
 
 
そんなこんなで善福寺池に到着。
時間はまだ朝の8時前だった。
 
 
いよいよエビ釣りだ。
試しにパンクズをばら撒いてみると小さいエビが寄ってくるのが見えた。
大した数ではなかったが。
 
「わ!ホントだ!エビだ!」
「よし、じゃあアレを使うか。」
 
兄貴はバッグの中から例のペットボトル製ウケビンを出した。
その中にパンを入れて沈めた。
 
しかし、あまり考えていた通りにはいかず、エビも進んで入って行く事はなかった。
「う〜ん、ダメかなぁ。」
 
ザバザバッ!
 
急に目の前で水しぶきが起こり、俺たちは驚いた。
「何だ?今の。」
「ザバッてなったぞ?」
 
よく見ると水の中には黒い影が動いていた。
「何かいるね…。」
「何だろうな。」
 
水の中をまじまじ見ていると、遠くからカモが集まってきた。
「あ、カモもいるんだねぇ。」
「ホントだ。」
 
カモに向かってパンを投げた。
カモはどんどん寄ってきた。
水に浮かんだパンをついばみ、グァグァ鳴いている。
 
その時、カモの下から再び水しぶきが上がって、カモがグァグァ騒ぎ出した。
「ん?何かがカモを攻撃してる?」
「なんだろう、アレは。」
 
ワニ?いや、そんなわけないか。
頭の中で一人ノリツッコミをしながらよく見ていると、一瞬だけ水面に尾びれが見えた。
 
「鯉だ。」
「あぁ、鯉かぁ。」
 
ここの鯉はカモをナメており、『俺のエサだ』とばかりにカモを威嚇するのだ。
エサを投げるとカモがついばむと同時にバシャっと尾びれで叩いたりもする。
 
「なんて横暴な鯉だ。」
「幅きかせてるなぁ。」
 
「水の中だから有利なんだろうな。」
「攻撃を受けないからねぇ。」
 
 
ふと後ろを見ると今度は猫が寄ってきた。
 
「おや、パン食うかい?」
 
ネコにパンを投げると少しずつ食い始めた。
おにぎりも少しだけ分けてやった。
ネコもどんどん集まってきた。
 
 
通りすがりのおばあちゃんが「あらあら、大勢に囲まれて。」とニコニコしながら言った。
エビと鯉とカモとネコにパンをやり続けていると、凄い図になっていたのだ。
バシャバシャ、グァグァ、ニャーニャーと。
 
 
 
そんな思い出の地、善福寺川。
十数年経った今、善福寺川沿いを散歩したいとたまに思う。
 
 
2006/03/25


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