野良ネコのサムは腹が減っていた。
食べ物を探して旅をしていると動物園に辿り着いた。
「あ〜、腹が減って死んじまう〜。」
サムは歩き疲れて動物園のベンチで寝ていた。
すると、どこからかネズミの声が聞こえてきた。
「チュウ太〜、あまり遠くに行っちゃダメよ〜。」
「うん、わかった〜。」
ネズミのチュウ太はまだ子供。
遊び盛りのヤンチャな野ネズミだ。
チュウ太の家は動物園の貯水タンクの下にあった。
貯水タンクは四方を金網に囲まれていて、サムは中に入れそうになかった。
サムは金網越しにチュウ太に話し掛けた。
「ボウヤ、ちょっとこっちにおいで。」
「イヤだい。」
チュウ太はサムを警戒していた。
「なぜ、イヤなんだい?」
サムは眉をひそめてチュウ太に聞いた。
「だって、ボクを食べようとしてるんだろ。」
チュウ太はそう言って金網から一歩後ろに下がった。
サムはしばらく考えた後、笑いながらこう言った。
「私はネコだよ?ネズミに勝てるはずがないじゃないか。」
「お母さんはネコに食べられないように気を付けなさいって言ってたよ。」
チュウ太はそう言ってサムをにらみつけた。
「やれやれ。キミのお母さんは知らないんだ、ネズミの本当の強さを。」
サムはそう言って溜め息をついて見せた。
「ネズミの本当の強さ?」
チュウ太は興味津々にサムの顔を見た。
サムはゆっくりと説明を始めた。
「我々、ネコはイヌよりも弱いんだ。それは知ってるかね?」
「そうなの?ボク、子供だからわからないよ。」
サムは驚いた様子で言った。
「えぇ?知らないのかい?それはかわいそうに。」
チュウ太はそう言われて少しションボリした。
「うん…知らないや…。」
サムは下水道の穴を見つけて、指差した。
「キミはそこから動物園を周れるかい?」
チュウ太はうなずいた。
「うん、ここは色んなトコに繋がってるから、どこでも行けるよ。」
サムは嬉しそうに言った。
「じゃあ、イヌの檻に行ってイヌに直接聞いてみよう!」
チュウ太は下水管の中に居れば大丈夫だと思った。
「うん、わかった。じゃあ聞いてみよう。」
イヌの檻の前に2匹が着いた。
サムは早速、檻の中に居るイヌに話し掛けた。
「イヌさん、イヌさんは我々ネコよりも強いですよね。」
イヌは大きくうなずいた。
「そりゃそうだ。俺の方が力があるからな。」
チュウ太はマンホールの中から言った。
「へぇ〜。本当なんだ。」
サムはさらに続けた。
「でも、イヌさんよりもライオンさんの方が強い。そうですよね。」
イヌは答えた。
「そうだな。ライオンさんには敵わないだろう。彼らは大きいし、キバとツメがスゴイから。」
チュウ太は「へぇ〜!」とただただ感心するばかり。
サムはチュウ太に話し掛けた。
「じゃあ次はライオンの檻に行こう。」
チュウ太は「わかった!」と答えて走り出した。
ライオンの檻の前に2匹が着いた。
サムは早速、檻の中に居るライオンに話し掛けた。
「ライオンさん、ライオンさんはイヌさんよりも強いですよね。」
ライオンは大きくうなずいた。
「そりゃそうだ。俺にはこのキバとツメがある。」
チュウ太はマンホールの中から言った。
「カッコイイ〜!」
サムはさらに続けた。
「でも、ライオンさんよりもゾウさんの方が強い。そうですよね。」
ライオンは答えた。
「う〜ん…。ゾウさんには敵わないな。彼らは俺よりももっと大きいから。」
チュウ太は「へぇ〜!」と声を上げた。
サムはチュウ太に話し掛けた。
「じゃあ次はゾウの檻に行こう。」
チュウ太は「わかった!」と答えて走り出した。
ゾウの檻の前に2匹が着いた。
サムは早速、檻の中に居るゾウに話し掛けた。
「ゾウさん、ゾウさんはライオンさんよりも強いですよね。」
ゾウはゆっくりとうなずいた。
「そうだね。私はこの大きな体と強い力があるから。」
チュウ太はマンホールの中から言った。
「うわぁ〜。すごく大きいや!」
サムはさらに続けた。
「でも、ゾウさんよりもクジラさんの方が大きい。そうですよね。」
ゾウは答えた。
「そうだね。クジラさんは私よりもうんと大きい。」
チュウ太は「スゴイ!」と声を上げた。
サムはチュウ太に話し掛けた。
「じゃあ次はクジラさんに会いに行こう。」
チュウ太は「わかった!」と答えて走り出した。
クジラの巨大水槽の前に2匹が着いた。
サムは早速、水の中に居るクジラに話し掛けた。
「クジラさん、クジラさんはゾウさんよりも大きいですね。」
クジラは水面に顔を出して答えた。
「そうだね。私はこの世界で一番大きい動物だから。」
チュウ太はマンホールの中から言った。
「スゴイスゴイ!」
サムはさらに続けた。
「でも、クジラさんも空気が無いと死んでしまう。そうですよね。」
クジラは答えた。
「うん。水中で暮らしてるからね。たまに息を吸わないと死んでしまう。」
チュウ太は「そうなんだぁ〜。」と声を上げた。
サムはチュウ太に話し掛けた。
「じゃあ空気さんよりも強いのは誰だろうね。」
チュウ太は首をかしげた。
サムは上を向いて話し掛けた。
「空気さん、空気さんよりも強いのは誰ですか?」
サムはチュウ太に気付かれないように声色を変えて言った。
「そうだなぁ。風さんには勝てないよ。ボクを吹き飛ばしてしまうから。」
チュウ太は納得した様子で「なるほど〜。」と言った。
サムは再び上を向いて話し掛けた。
「風さん、風さんよりも強いのは誰ですか?」
サムはチュウ太に気付かれないようにまた声色を変えて言った。
「壁さんだね。ボクがいくら吹いてもビクともしないから。」
チュウ太はうんうんとうなずいて「そっかぁ〜。」と言った。
サムは壁に向かって話し掛けた。
「壁さん、壁さんよりも強いのは誰ですか?」
サムはチュウ太に気付かれないようにまたまた声色を変えてこう言った。
「ネズミさんだよ。ボクに穴を開けてしまうから。世界一強いのはネズミさんだよ。」
チュウ太は「ボクが世界で一番強いの?」と喜んで言った。
サムはチュウ太に向かって言った。
「ほらね、ネズミの本当の強さがわかったろう?」
チュウ太は大きくうなずいた。
「うん!じゃあ、ネコさんよりボクの方が強いんだね!」
サムは言った。
「そうだよ。だから私を怖れることはないんだ。強いのはキミの方だからね。」
チュウ太は「そっか!」と安心してマンホールから出てきた。
サムはほっぺたを押さえてこう言った。
「ところで、私は奥歯がさっきから痛んでね。ちょっと見てくれないか?」
サムは大きく口を開け、奥歯を指差した。
チュウ太はサムの口に頭を入れて奥歯をのぞき込んだ。
サムはその口を閉じた。
2006/12/15
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