夜の世界では上手い話で人を騙すハイエナが多い。
そのハイエナたちの牙は、時に他人の人生を破綻させるほどの打撃を与える。
だから、夜の世界に住む人間はまず人の話を疑ってかかる癖がつく。
腹の中でその話の真偽を冷静に判断する間は、
相手に気持ち良く話をさせる職業病が役に立つ。
とりあえず、慣れるまでは大げさに反応しときゃいい。
「マジっすか!?」だの「え、マジっすか!?」だの言っときゃいい。
これを連呼してりゃバカなハイエナは気持ち良くなるもんだ。
その間に腹の中で判断を付けるんだ。
『そんなお粗末なネタで俺を喰おうってか俺も随分とバカにされたもんだな』とか、
『ホントにオイシイのかもしれねぇ裏を取って損が出ない程度に一枚噛んでみるか』とか。
だが、大抵のオイシイ話にはどこかに落とし穴があるもんだ。
その穴を見付けたら、次はいつ切り上げるかを考えるべきだ。
自分の店に来てるんなら、なるべく引き延ばして金を落とさせる。
他の店なら用が出来たフリして立ち去ればいい。
夜の世界じゃ騙し合いは日常茶飯事だ。
ネコのじゃれ合いみたいなもんだ。
いちいち目くじら立てちゃ疲れるだけだ。
一晩明かしたら水に流せばいい。
ただし、危害を加えられたら黙っていてはいけない。
キッチリやり返さなければ相手にナメられて、
何度も危害を加えられる事にもなりかねない。
大抵は相手も痛み分けを望んでるわけじゃない。
普通の人間ならリスクを考えて折れてくる。
いつまでも戦うのは消耗するからだ。
しかし、リスクを厭わない人間もいる。
こいつらはハイエナじゃない。
死を畏れない夜の世界の死霊だ。
マトモな話が通じる相手じゃない。
こういう類に捕まったら話は別だ。
多少の犠牲を払ってでも早急に切らなければならない。
でなければ、骨までしゃぶり尽くされる。
そんな世界で暮らしていると、自分もハイエナになったりする。
『俺だったら、もっと上手く騙し通せるはずだ。』
そうして、ハイエナも世代交代していく。
俺もハイエナだったんだろうか。
夜の世界に生きてた頃の俺は他人の目にどう映ってたんだろうか。
客観的に判断できそうな友人に聞いてみると、彼はこう言った。
『オマエは食うために狩る事はなかった。それがハイエナと違うトコじゃないの?』
なるほど。
言われてみればそうだ。
俺は生きるために狩りをしてたわけじゃなかったんだ。
だから純粋に狩りやじゃれ合いを楽しめたわけか。
しかし、最近は狩りをしなくなって久しい。
感覚が鈍らないように他人の狩りに口出しするとしよう。
2007/04/10
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