俺のたわごと

ま、たわいのないことばっか書いてますけど暇なら見てね。
日々の考え事、昔の事などが書いてあります。

 520   トラウマ教室。
 
ついに復讐の手段を見つけたぞ。
これであの学校をメチャクチャにしてやる。
復讐だ…復讐をしてやる…!!
 
 
鈍い色で輝く短銃をひとしきり眺めた後、
俺はそれをジャンパーの内ポケットに収めた。
 
 
あの学校に入ったせいで、俺の人生はムチャクチャになったんだ。
全部あの学校のせいだ。
 
 
しかし、あんな酔っ払いがこんなものを持ってるとは…。
世の中はホントに物騒なもんだ。
 
 
2日前。
道端で吐いていた酔っ払いが「水くれ!」とわめいていた。
たまたまミネラルウォーターを持っていた俺はそのオッサンに水を渡した。
 
「ありあとよ〜、兄てぃぁん。おでも昔はヤクザだったんだ。
 いみゃは…たらののんべだ!へへっ!へへへへ!」
元ヤクザを自称するその酔っ払いは、
ロレツの回らない口調で介抱したお礼にと短銃をくれた。
 
最初は何かの冗談でプラスチック製のオモチャだと思っていたが、
持ってみるとそれはズシリと重く、紛れもない鉄の塊である事がわかった。
 
「本物…!?」
「弾はな、あと5発入っちうと思うんら。」
 
俺はドキドキしながら、銃をジャンパーのポケットに入れ、ダッシュで逃げた。
俺が欲しかった『復讐の手段』がついに手に入ったんだ。
返せと言われる前に逃げてやる。
絶対に手放さないぞ。
 
俺は笑いながら繁華街を駆け抜け、家に向かった。
すれ違う人々がダッシュしてる俺を見ていた。
だが、それが気にならないくらいに俺は浮き足立っていた。
 
いつやろう。
いつやるのがいいだろう。
 
明日は準備のために心を落ち着かせて…、明後日やろう。
今日手に入れて明日実行じゃ、いくらなんでも早過ぎる。
 
「よし、明後日だ…明後日だ。」
俺は自分を落ち着かせるようにそうつぶやいて寝床についた。
 
 
そして、次の日は下見に費やした。
下見と言っても場所は自分の母校だ。
敷地内は知り尽くしている。
 
下見は門の施錠の有無や防犯カメラの有無だ。
外部の人間に対する警戒の度合い、侵入のしやすさは重要だ。
10年以上もくすぶらせた思いがここにはある。
失敗はしたくない。
 
案の定、田舎の小学校だからか、警備は薄かった。
昔となんら変わらない風景は逆に嫌な思い出をよぎらせた。
 
俺をイジメてたヤツの顔。
「あまりふざけすぎるなよー。」などとイジメを黙認した担任の顔。
引きこもった俺を義務で訪ねて来た校長の顔。
 
俺の人生が狂ったのは全てこの学校のせいだ。
 
復讐してやる。
アイツらの人生も台無しにしてやる。
 
 
 
 
決行の日。
 
誰にも怪しまれる事なく校舎に入り込んだ俺は、
【6−2】と書いてある教室の前で深呼吸をした。
 
窓から中を覗くと、教師の姿は見えなかった。
これなら子供たちを人質に出来る。
 
俺は教室のドアを勢い良く開け、天井に向かって銃を撃った。
 
ガァ―――ン
 
派手に乾いた音が響いた。
そのあまりの音に俺の興奮は一気に高まった。
 
「う、動くなぁぁぁああ!!動くとぶっ殺すぞぉぉおおお!」
ありったけの声で叫ぶ。
 
「キャアァァアアア!!」
「ワァァアアア!!」
 
逃げ惑う生徒たちは窓側に固まり始めた。
 
「助けてぇぇえ!」
「お母さぁぁあん!」
 
何人かの生徒が泣き始めた。
しかし、何人か冷めた目で俺を見る生徒がいた。
 
「みんな落ち着いて。騒げば彼を刺激するだけよ。」
「落ち着こう。騒がなくても大丈夫。」
 
「私が学級委員長の鈴音です。」
「僕は副委員長の直樹です。」
 
「あなたの目的を聞かせていただけませんか?」
「落ち着いた話し合いが出来ると思います。」
 
なんだこの大人びたガキ共は…。
クソ!こんなガキ共に主導権を取られてたまるか!
 
「端に固まって座れ!動くとぶっ殺すぞぉぉ!」
出来る限り大声を出して威嚇した。
 
「おとなしく従いましょう!みんな落ち着いて迅速に行動して下さい!」
鈴音というガキが手をパンパンと叩くと、
みんなが机を寄せて後方窓際にスペースを作り始めた。
 
「素早く行動しましょう!端から詰めて体育座りでお願いします!」
直樹というガキも至って冷静に誘導していた。
 
その2人の誘導の甲斐もあって、思ったよりも早く子供たちは静かになった。
時折、誰かの鳴き声が聞こえてきたが、鈴音というガキが小さな声で、
「シッ、大丈夫よ。安心して。」となだめていた。
 
しばらくして、パトカーのサイレンが近付いてくるのが聞こえた。
警察を呼ばれたか。
思ったより対応が早いじゃねぇか。
 
俺が窓の外を覗いていると、途端に1人のガキが騒ぎ始めた。
その様子は尋常じゃなかった。
 
「うわぁぁああ!ヤツらが!ヤツらが来るぅぅうう!」
「大丈夫よ、ケンちゃん!このオジサンはヤツらじゃないわ!」
鈴音が必死になってそのガキを鎮めようとしていた。
 
「え?え?何?」
俺は恐怖に怯えるガキの表情に、完全に呑まれていた。
 
「ヤツらが!ヤツ…ゲホッゲホッ!」
「ケンちゃん!落ち着いて!ケンちゃん!」
 
何か事情があるらしい。
過去に強烈なトラウマかなんかがあるんだろうか。
 
「あの…ヤツらって…何?」
俺がゆっくりと聞くと、そのガキはガタガタと震えながら答えた。
 
「僕の…パパがロサンゼルスに単身赴任してて、
 去年のクリスマスにママと一緒に遊びに行ったんだ…。
 パパの友達もみんな来てくれて、みんなでホームパーティをして、すごく楽しかった…。
 だけど、その晩…ヤツらが来て…うぅ…。」
 
そこまで言うと、ケンとかいうガキは泣きだした。
鈴音はそのガキを抱きかかえて背中をさすっていた。
 
どんな状況だったんだ?
ヤツらが何をしたんだ?
俺は話の続きが気になってしょうがなかった。
 
「ヤツらが…何? っていうか、ヤツらって誰?」
「オジさん、黙ってて。」
直樹が口元に指を当てて言った。
「ケンちゃん、ゆっくりでいいからね。」
「なにこれ。あっという間にワキ役扱い?」
「まだケンちゃんが話してる途中でしょうが!」
「あ、なんか…スイマセン…。」
 
「ヤツらは母さんを…!!僕の前で…!!うっ…うっ…。」
「だからヤツらって誰だよ〜!何があったかゆえよぉ〜!!気になるだろうよ〜!!」
「オジさん。」
「ハイ?」
「うるさいんだけど。」
「ハイ…。」
 
「辛かったわね、ケンちゃん。」
「え?何があったの?一番大事なトコ言ってなくね?」
「オジサン、空気読んでよ。聞ける状況じゃないでしょ?」
「人として、そこは聞かない約束だよ、オジサン。」
「ダメなんだ…銃を見ると身体が…震えちゃって…。」
「オジサン、それどっかにやってよ。ケンちゃんがフラッシュバック起こしてるでしょ?」
「いつまで出してんの?空気読んでよ、オジサン。」
「スイマセン…。」
 
俺は銃を花瓶の中に入れた。
 
「こ、これでいいかい?」
「ケンちゃん、もう大丈夫よ。」
「うぅ…ゴメン…ありがとう、オジサン。」
 
「あ、あぁ…いいってことよ。で…お母さんはヤツらにどうされたんだい?」
「ヤツらは僕を縛り付けて、母さんの服を脱がしにかかったんだ…。」
俺はゴクリと生唾を飲んだ。
「うん…。」
「そしたら…。」
 
「そこまでだ!」
あっという間に警察官がなだれ込んで来た。
 
「ちょっ、待ってくれ!話の続きが!」
「母さんは…うぅ…。」
 
取り押さえられ、連行される。
「母さんがどうなったんだよぉ!早く言えよぉ〜!」
 
その時、ケンちゃんがニヤリと笑った。
「さようなら、オジサン。」
鈴音もニヤリと笑っていた。
「早く連れ出して下さい。」
 
その時に俺は気付いた。
あぁ、ワナだったんだ…。
 
 
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犯人が連行された後、生徒たちは親と対面した。
その中にはケンちゃんのお母さんもいた。
 
「ケン、大丈夫だった?ケガはない?」
「うん。平気だよ。」
「よく助かったわねぇ。生きた心地しなかったわ。」
「犯人のおじさんに例のサプライズパーティの話をしてあげたんだ。演技を交えてね。」
「まぁ!母さんのコスプレの話はしなかったでしょうね。」
「あと少しだったんだけどね。」
 
 
2008/09/22


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