ついに復讐の手段を見つけたぞ。
これであの学校をメチャクチャにしてやる。
復讐だ…復讐をしてやる…!!
鈍い色で輝く短銃をひとしきり眺めた後、
俺はそれをジャンパーの内ポケットに収めた。
あの学校に入ったせいで、俺の人生はムチャクチャになったんだ。
全部あの学校のせいだ。
しかし、あんな酔っ払いがこんなものを持ってるとは…。
世の中はホントに物騒なもんだ。
2日前。
道端で吐いていた酔っ払いが「水くれ!」とわめいていた。
たまたまミネラルウォーターを持っていた俺はそのオッサンに水を渡した。
「ありあとよ〜、兄てぃぁん。おでも昔はヤクザだったんだ。
いみゃは…たらののんべだ!へへっ!へへへへ!」
元ヤクザを自称するその酔っ払いは、
ロレツの回らない口調で介抱したお礼にと短銃をくれた。
最初は何かの冗談でプラスチック製のオモチャだと思っていたが、
持ってみるとそれはズシリと重く、紛れもない鉄の塊である事がわかった。
「本物…!?」
「弾はな、あと5発入っちうと思うんら。」
俺はドキドキしながら、銃をジャンパーのポケットに入れ、ダッシュで逃げた。
俺が欲しかった『復讐の手段』がついに手に入ったんだ。
返せと言われる前に逃げてやる。
絶対に手放さないぞ。
俺は笑いながら繁華街を駆け抜け、家に向かった。
すれ違う人々がダッシュしてる俺を見ていた。
だが、それが気にならないくらいに俺は浮き足立っていた。
いつやろう。
いつやるのがいいだろう。
明日は準備のために心を落ち着かせて…、明後日やろう。
今日手に入れて明日実行じゃ、いくらなんでも早過ぎる。
「よし、明後日だ…明後日だ。」
俺は自分を落ち着かせるようにそうつぶやいて寝床についた。
そして、次の日は下見に費やした。
下見と言っても場所は自分の母校だ。
敷地内は知り尽くしている。
下見は門の施錠の有無や防犯カメラの有無だ。
外部の人間に対する警戒の度合い、侵入のしやすさは重要だ。
10年以上もくすぶらせた思いがここにはある。
失敗はしたくない。
案の定、田舎の小学校だからか、警備は薄かった。
昔となんら変わらない風景は逆に嫌な思い出をよぎらせた。
俺をイジメてたヤツの顔。
「あまりふざけすぎるなよー。」などとイジメを黙認した担任の顔。
引きこもった俺を義務で訪ねて来た校長の顔。
俺の人生が狂ったのは全てこの学校のせいだ。
復讐してやる。
アイツらの人生も台無しにしてやる。
決行の日。
誰にも怪しまれる事なく校舎に入り込んだ俺は、
【6−2】と書いてある教室の前で深呼吸をした。
窓から中を覗くと、教師の姿は見えなかった。
これなら子供たちを人質に出来る。
俺は教室のドアを勢い良く開け、天井に向かって銃を撃った。
ガァ―――ン
派手に乾いた音が響いた。
そのあまりの音に俺の興奮は一気に高まった。
「う、動くなぁぁぁああ!!動くとぶっ殺すぞぉぉおおお!」
ありったけの声で叫ぶ。
「キャアァァアアア!!」
「ワァァアアア!!」
逃げ惑う生徒たちは窓側に固まり始めた。
「助けてぇぇえ!」
「お母さぁぁあん!」
何人かの生徒が泣き始めた。
しかし、何人か冷めた目で俺を見る生徒がいた。
「みんな落ち着いて。騒げば彼を刺激するだけよ。」
「落ち着こう。騒がなくても大丈夫。」
「私が学級委員長の鈴音です。」
「僕は副委員長の直樹です。」
「あなたの目的を聞かせていただけませんか?」
「落ち着いた話し合いが出来ると思います。」
なんだこの大人びたガキ共は…。
クソ!こんなガキ共に主導権を取られてたまるか!
「端に固まって座れ!動くとぶっ殺すぞぉぉ!」
出来る限り大声を出して威嚇した。
「おとなしく従いましょう!みんな落ち着いて迅速に行動して下さい!」
鈴音というガキが手をパンパンと叩くと、
みんなが机を寄せて後方窓際にスペースを作り始めた。
「素早く行動しましょう!端から詰めて体育座りでお願いします!」
直樹というガキも至って冷静に誘導していた。
その2人の誘導の甲斐もあって、思ったよりも早く子供たちは静かになった。
時折、誰かの鳴き声が聞こえてきたが、鈴音というガキが小さな声で、
「シッ、大丈夫よ。安心して。」となだめていた。
しばらくして、パトカーのサイレンが近付いてくるのが聞こえた。
警察を呼ばれたか。
思ったより対応が早いじゃねぇか。
俺が窓の外を覗いていると、途端に1人のガキが騒ぎ始めた。
その様子は尋常じゃなかった。
「うわぁぁああ!ヤツらが!ヤツらが来るぅぅうう!」
「大丈夫よ、ケンちゃん!このオジサンはヤツらじゃないわ!」
鈴音が必死になってそのガキを鎮めようとしていた。
「え?え?何?」
俺は恐怖に怯えるガキの表情に、完全に呑まれていた。
「ヤツらが!ヤツ…ゲホッゲホッ!」
「ケンちゃん!落ち着いて!ケンちゃん!」
何か事情があるらしい。
過去に強烈なトラウマかなんかがあるんだろうか。
「あの…ヤツらって…何?」
俺がゆっくりと聞くと、そのガキはガタガタと震えながら答えた。
「僕の…パパがロサンゼルスに単身赴任してて、
去年のクリスマスにママと一緒に遊びに行ったんだ…。
パパの友達もみんな来てくれて、みんなでホームパーティをして、すごく楽しかった…。
だけど、その晩…ヤツらが来て…うぅ…。」
そこまで言うと、ケンとかいうガキは泣きだした。
鈴音はそのガキを抱きかかえて背中をさすっていた。
どんな状況だったんだ?
ヤツらが何をしたんだ?
俺は話の続きが気になってしょうがなかった。
「ヤツらが…何? っていうか、ヤツらって誰?」
「オジさん、黙ってて。」
直樹が口元に指を当てて言った。
「ケンちゃん、ゆっくりでいいからね。」
「なにこれ。あっという間にワキ役扱い?」
「まだケンちゃんが話してる途中でしょうが!」
「あ、なんか…スイマセン…。」
「ヤツらは母さんを…!!僕の前で…!!うっ…うっ…。」
「だからヤツらって誰だよ〜!何があったかゆえよぉ〜!!気になるだろうよ〜!!」
「オジさん。」
「ハイ?」
「うるさいんだけど。」
「ハイ…。」
「辛かったわね、ケンちゃん。」
「え?何があったの?一番大事なトコ言ってなくね?」
「オジサン、空気読んでよ。聞ける状況じゃないでしょ?」
「人として、そこは聞かない約束だよ、オジサン。」
「ダメなんだ…銃を見ると身体が…震えちゃって…。」
「オジサン、それどっかにやってよ。ケンちゃんがフラッシュバック起こしてるでしょ?」
「いつまで出してんの?空気読んでよ、オジサン。」
「スイマセン…。」
俺は銃を花瓶の中に入れた。
「こ、これでいいかい?」
「ケンちゃん、もう大丈夫よ。」
「うぅ…ゴメン…ありがとう、オジサン。」
「あ、あぁ…いいってことよ。で…お母さんはヤツらにどうされたんだい?」
「ヤツらは僕を縛り付けて、母さんの服を脱がしにかかったんだ…。」
俺はゴクリと生唾を飲んだ。
「うん…。」
「そしたら…。」
「そこまでだ!」
あっという間に警察官がなだれ込んで来た。
「ちょっ、待ってくれ!話の続きが!」
「母さんは…うぅ…。」
取り押さえられ、連行される。
「母さんがどうなったんだよぉ!早く言えよぉ〜!」
その時、ケンちゃんがニヤリと笑った。
「さようなら、オジサン。」
鈴音もニヤリと笑っていた。
「早く連れ出して下さい。」
その時に俺は気付いた。
あぁ、ワナだったんだ…。
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犯人が連行された後、生徒たちは親と対面した。
その中にはケンちゃんのお母さんもいた。
「ケン、大丈夫だった?ケガはない?」
「うん。平気だよ。」
「よく助かったわねぇ。生きた心地しなかったわ。」
「犯人のおじさんに例のサプライズパーティの話をしてあげたんだ。演技を交えてね。」
「まぁ!母さんのコスプレの話はしなかったでしょうね。」
「あと少しだったんだけどね。」
2008/09/22
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