俺のたわごと

ま、たわいのないことばっか書いてますけど暇なら見てね。
日々の考え事、昔の事などが書いてあります。

 523   マンゴーの思い出。
 
初めてマンゴーを食べたのは、5年ほど前だった。
 
同じキャバで働いていたミナコが、
「店舗の目利きと交渉に着いて来てくんない?」と俺に頼みに来た。
 
ミナコは高飛車なガキで好きじゃなかった。
そもそも、人にモノを頼む言い方じゃねぇだろ。
そう思ったが、それを指摘するのも面倒くせぇ。
 
今後の人生も、その性格で損をし続けるがいいよ。
そう思って、俺はいつも聞き流していた。
 
ミナコはかなり前から自分で店をやりたがっていて、
色々なハコ(店舗)を探していたらしい。
そんな中で知人からその話が回って来たとか。
 
俺もハコ選びには興味があるので聞いてみた。
「どんなハコよ?」
 
聞けば、パブをやってたハコが移転して空くらしい。
場所は駅から少し離れたところだった。
立地条件はそんなに良くない。
だが、そのパブは成功して栄転するという話だった。
 
「ママが凄腕なんだ。」とミナコがのたまった。
おれはどんなママなのか興味が沸いてきた。
 
どうやら、ミナコはその凄腕ママに言い包められるのを怖れているらしい。
そのために交渉に強い立会人が欲しいわけか。
 
ミナコの横にはミナコの彼氏で俺が可愛がってる後輩のケンイチが立っていた。
『一緒に行ってください。』と言わんばかりの目をしている。
 
俺はミナコがそんなに好きではなかったが、
場合によってはウチの店に影響が出る(他の子も辞める)だろう事と、
貸しを作っておくのも悪くないと思った事、
どんなハコなんだろ?と単純に興味が沸いた事と、
可愛がってる後輩の彼女だという義理もあって引き受ける事にした。
 
 
当日はミナコ・ケンイチ・俺・当時の彼女・ミナコの親友の5人で行くことになった。
 
待ち合わせの場所に行ってみると、黒塗りベンツが止まっていた。
「後ろ、着いて来てくれ。」とジャージ姿のオッサンに言われた。
一瞬、カタギの人じゃないのかな?と思ったが、そこは気にしないでおいた。
 
そのオッサンはそのパブのママが用意した立会人らしい。
立会人を用意するのはママが意外と押しに弱い証拠だろうか。
 
少し話すと、その金城というオッサンが頭の切れる人だとわかった。
ホスト時代のオーナーと部長を足して2で割ったような人だった。
これ系は味方のうちは良いが、敵にすると最悪だ。
 
ようは頭が切れる味方を連れて来て、有利に運ぼうとしてるわけだ。
つまり、向こうにとっては俺と同じポジションか。
俺が抑えるべき相手はこのオッサンのようだ。
 
 
正直、店舗はこちら側が想像してたのと違った。
あまり良いとは思えなかった。
 
だが、ママと金城さんは何とかして譲りたいようだった。
ミナコが「ここがちょっとなぁ…。」と言えば、
「そこはこうすれば問題無く使えるよ。その辺は自由だから。」というように、
彼らは一つ一つ断る理由を潰していく戦術を取っていた。
 
ミナコは店舗自体にはあまり気に入ってない様子だったけど、
断る理由を潰されていく事で押されっぱなしになっていた。
さらに、わざわざ2人に時間を割いてもらった手前、無下に断れずにいるようだった。
 
どこまでも面倒くせぇ展開だ。
気がねぇならとっとと終わらせてやるか。
 
俺はわざとミナコに説教するような口調で言った。
「オマエが即答できねぇなら、100%は気に入ってないって事だろ。
 そんな状態で選んじまったら、後で不満が出てくる。
 どっちつかずで気ィ持たせんのはママにも金城さんにも失礼だ。
 オマエの店はオマエが100%納得するハコを借りろ。」
 
俺がそう言うと、話はお流れの方向になった。
ママと金城さんを立てつつ、筋を通して話を流れさせる作戦だった。
 
 
「今日は時間割いてもらってスミマセン。ありがとうございました。」
俺らがそう言うと、金城さんは俺たちをファミレスに誘った。
まだ交渉の余地があると思ってるんだろうか。
 
ファミレスに入ると、金城さんは明らかに俺にばかり話を振って来た。
それは自分の力を誇示し、俺の力量を測るような話の振り方だった。
 
俺みたいな小僧に話を潰された事が悔しいんだろうか。
メンツを重んじる人なのか。
それとも、単に話がしたかったんだろうか。
 
ふと、メニューに目をやると、
【マンゴーフェア】ってのがやたらとアピられていて気になった。
 
「マンゴーって、美味いのかな?」
俺の一言にみんなが反応した。
「有也さん、食いたいの?(笑」
「うーん、ちょっと食いたいかも。」
 
別にそれほど食いたかったわけじゃない。
ただ、食った事が無いから味が気になってはいた。
 
食った事がある人に意見を聞きたかっただけなのだ。
「あぁ、美味いよ。」とか、「そんなに美味くないよ。」とか、
「〇〇みたいな味かな。」とか言って欲しかったのだ。
そんな程度だった。
 
「いいよ。頼めよ。」
金城さんにそう言われ、俺は少し慌てた。
なんだか、金城さんにねだってるみたいでみっともなく思えたからだ。
「えっ、あっ…でも…。」
「スイマセーン。」
金城さんは店員の姉ちゃんを呼び付けてマンゴーを注文した。
 
その店員さんはやたらと愛嬌がある子だった。
俺と金城さんは口を揃えて言った。
「あの子、売れるだろうなぁ…。」
「キャバで働いたら売れそうだなぁ…。」
 
俺と意見が合った事が嬉しかったのか、金城さんは笑顔になった。
「なぁ?売れるよな?」
「えぇ。完全に素人ですが、愛嬌が天性のものですよね。」
「オマエ、誘わないの?」
「うーん…こんなトコで誘うのは気が引けるっつーか…。」
「じゃあ俺が誘うわ。」
そう言って、金城さんはその子をスカウトし始めた。
 
「えぇー、イヤです。」
その子はあっさりと申し出を断った。
 
「即答だなオイ。」
拍子抜けだったが、それがその子の魅力だとも思った。
普通だったら、「えぇ〜、でも…。」とかモゴモゴ言うもんだ。
キッパリと断るってのはなかなか出来ない。
 
そこで逆にその子が気に入った。
それは金城さんも同じらしかった。
 
しばらくすると、その子はカゴいっぱいにマンゴーを抱えて戻ってきた。
「え?え?」「なにこれ?」
俺らはポカーンとその子を見ていた。
 
「どれがいいですか?」
予想外の言葉にケンイチは爆笑し始めた。
「いや、どういうのが良いのかわかんないし!」
ミナコたちがそう言って笑った。
 
「こういう色のヤツが美味しいみたいです!」
満面の笑みでその子はマンゴーを手に取った。
さっき金城さんのスカウトを断った事なんて、さっぱり頭に無いようだった。
 
「じゃあ、それで。」
「はい。少々、お待ちください。」
 
その子が立ち去った後、ミナコたちはまだ笑っていた。
だけど、俺と金城さんは真顔だった。
「あの子、肝が座ってますね。」
「あぁ、ますます欲しいな。」
 
しばらくするとマンゴーが運ばれてきた。
「ワーイ。人生初マンゴー!」
 
オレンジ色の実を目の前にしてスプーンを取ると、視線が気になった。
全員が俺に注目していた。
「なんで注目されてん?」
「いいから食べてみなよ。」
みんなに見守られながらマンゴーをすくって食べてみた。
 
「あぁ、こういう味なのかぁ。」
色と形からして納得、みたいな味だった。
 
 
さんざんご馳走になった後、俺たちは金城さんにお礼を言って帰った。
帰りの車中、ミナコが笑いながら言った。
「マジで有也さん、勘弁してよ!金城さんにマンゴーねだってんだもん!」
それを聞いてケンイチが爆笑し始めた。
「ホント!有也さん、マジウケた!」
 
そんなに笑うトコだろうか。
まぁ初対面のオッサンにマンゴーねだるのは面白いっちゃ面白いが。
 
「いや、別にそんなに食いたかったわけじゃないんだけどねぇ。」
「だって、金城さんって○○会の幹部だよ?」
「えっ!?マジで!?」
「ウチの店の近所に事務所あるじゃん?」
「あぁ、土田さんトコね。」
「あそこのカシラって超怖くて有名じゃん?」
「うん。みんな怖れてるよね。」
「あのカシラが金城さんには絶対に頭が上がらないくらい。」
「マジか…。」
「そんな人にマンゴー!(笑」
 
そんなの全く知らされてなかったけど。
しかも、交渉を流れさせちゃったけど。
 
立会人になったって事は、話がまとまったら、いくらかママから金がいくはずだったんだろうなぁ。
それを邪魔した上にマンゴーまで奢らせた俺。
これは面白すぎる。
 
ちょっぴり血の気が引いた。
 
 
そして、数日後。
 
金城さんがうちのキャバにプラッと飲みにきた。
そして、すぐに俺をテーブルに呼んだ。
 
「先日はありがとうございました。」
とりあえず、笑顔であいさつ。
 
「おぅ、座れよ。」
「はい。」
「こないだの子、いるだろ?」
「こないだの?」
「ファミレスの店員だよ。」
「あぁ、あの子は惜しかったですよね。」
「ウチに引いたよ。」
「えっ!?マジっすか?」
「あれから何度か通ったんだ。」
 
これを聞いた時、俺は金城さんの性格がわかった気がした。
話を流された事で、俺にやられっぱなしではいられなかったんだろう。
多分、あの店員さんを引いたら、俺が感服すると思ったんだろう。
 
実際、あの店員さんがあぁもキッパリと断っていたのに、
そこから逆転できた事は感服せざるを得ない事だった。
 
「スゲェ〜!よく引けましたね!」
「まぁな。」
金城さんは誇らしげに笑った。
 
そして、おもむろにケータイを取り出して、誰かに電話をした。
しばらくすると、事務所からカシラが走って来た。
「スイマセン!ご無沙汰してます。お待たせしました。」
「おぅ。」
 
カシラが他人に頭を下げてるトコなんて見た事ない。
金城さんはそんなにスゲェ人だったのか。
俺はここでようやく金城さんの凄さを肌で理解できた気がした。
 
「カシラ、彼は有也ってんだ。名刺をやってくれ。」
「はい!」
金城さんに言われ、カシラはすぐに俺に名刺を差し出してきた。
「土田です。」
「あ、はい。存じております。有也です。よろしくお願いします。」
 
金城さんはその様子を見た後、ニッと笑って俺に言った。
「ここより西で何かあったらカシラに言え。東で何かあったら俺に言え。」
「あ…はい、ありがとうございます。」
 
それだけが言いたかったらしく、金城さんはその後すぐに店を出た。
金も余分に払って、釣りの数千円も受け取らずに帰って行った。
 
ここらで一番幅を利かせているカシラを呼んだのは、
きっと自分の力をわかりやすく俺に誇示するためだったんだろう。
 
金城さんは俺を気に入ってくれていたのか、
それとも単に俺を屈服させたかっただけなのか、
それはわからないまま今に至っている。
 
 
何にしても、金城さんとはもっと話したかった。
巡り合わせが違ったら、俺はあの人と一緒に働いてただろう。
 
マンゴーを食べると、いつも金城さんを思い出す。
あの人は今も元気にしているんだろうか。
縁があったら、また会って色んな話をしたい。
 
マンゴーを食べながら。
 
 
2008/10/11


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