歌舞伎町ラブストーリー


 1   第1話
 
見慣れた風景。
ココはビル街。
 
男は深呼吸して駅に向かって歩いた。
時計は夜中の1時を指している。
 
「タクシーで帰るか。」
独り言を呟き、ふと前を見るとそこには女の子が座っていた。
 
どう見ても家出少女。
彼女は腕を組みながら寝ていた。
ビル風が強く吹き付けている。
 
「おい、こんなトコで寝たら風邪引くぞ。」
「家に帰れないからしょうがないの。」
 
やはり家出少女か。
夏休みはこういうのが多いな。
 
「どっかに泊まればいいじゃねぇか。」
「お金があったらそうしてるよ。」
 
かといってこんなトコに居て危険な目に遭っても構わないのだろうか。
生来の世話好きが男の財布を開けた。
 
「ほら。」
男は1万円札を差し出した。
 
「ウリなんかやんないよ。」
少女は冷たく言い放った。
 
「買わないよ。やる。それでどっかに泊まれ。じゃあな。」
男は再び駅に向かって歩き出した。
 
「待って。」
後ろから声がした。
男が振り返ると少女が走って向かってきた。
 
「どうした?」
「貰えないよ。アタシ、別にアンタの知り合いでも何でもないじゃん。」
 
「あぁ、じゃあ拾ったと思えよ。」
「アンタが渡したモノじゃん。」
 
「俺は財布から1万円札を落としたんだ。それをおまえが拾った。それだけのこった。」
「違うよ。」
 
「いいんだよ。金は必要なヤツが使った方が良い。
 俺がどっかで飲めば1万円なんかすぐに吹っ飛ぶ。」
「でも・・・。」
 
「飲んだと思えばいい。そんだけの話だ。」
「でも貰えないよ。」
 
「じゃあ話してくれ。何でおまえがこんなトコにいるのか。
 その話を聞くための料金だと思ってその金は納めろ。」
「・・・私は家出してきたんだ。」
 
少女は自分の身の上話をした。
 
彼女は17歳で高校3年生。
幼い頃に父親を事故で無くし、5年前に母は再婚した。
 
その母の再婚相手の男はしょっちゅう自分を殴りつけるらしい。
母親は男の言うなりで家の中に味方は居ないという。
 
そして2日前の夜中、彼女がベッドで寝ていると突然、男が襲い掛かってきたという。
彼女は必死に抵抗し、男の股間を蹴り上げ、そのまま家を出たという。
 
そして電車でここまで来たが、わずかに持っていた金も底を尽き、
今後どうしようかとここで考えていたらしい。
 
話を聞いて男はこう言った。
「そうか・・・。ウチに来るか?」
 
「えっ?」
少女は驚いた。
 
「俺は一人暮らしだ。部屋は2DK。あまり使ってない部屋があるからそこを使えばいい。」
「でも・・・。」
 
「ここに居ても何にもならねぇだろう。とりあえずの飯は食わしてやる。
 バイトでも探して金を貯めろ。自分で部屋を持てるようになったら出て行けばいい。」
「アンタもアタシの体が目当てなんだろ?」
 
「悪いが俺は恋愛やSEXに興味が無いんだ。」
「えっ、ゲイなの?」
 
「そういう意味じゃねぇよ。」
「???」
 
「とりあえず、心配だったら部屋に内鍵を付けてやるよ。」
「・・・信じるよ。」
 
「信じなくてもいい。自分がしたいようにしな。」
「わかった。」
 
「じゃあ行くぞ。」
「ウン。」
 
タクシーに乗ること30分。
ようやく男の家に着いた。
 
家に入ると男は北側の一室に少女を通した。
「ここだ。おまえはこの部屋を使え。」
 
その部屋にはパイプベッドとクローゼットだけがあった。
「今日はもう遅い。とっとと寝ろ。」
 
「あ、あの・・・ありがとう。」
 
男は何も言わずに部屋を出て行った。
 
 
2004/07/26更新


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