歌舞伎町ラブストーリー


 2   第2話
 
翌朝。
少女が居間に向かうと男はもう既に起きてコーヒーを飲んでいた。
 
「あっ、あの・・・。おはよう。」
「ん?おまえ、着替えてないのか。部屋にあるヤツ勝手に着ていいぞ。」
 
「部屋にある服?」
「あぁ、クローゼットを開けりゃ中に女物の服が入ってるはずだ。それを着ろ。
 その前に風呂でも入って来い。鍵は掛かるから心配すんな。」
 
「なんで女物の服を持ってるの?」
「昔、ここに居た女のモノだ。もう居ない。」
 
「別れた彼女の?」
「まぁそんなトコだ。ほら、とっとと行け。」
 
少女はそれ以上、彼に聞いてはいけない気がした。
部屋に戻り、クローゼットを開けると女物のTシャツやジーパンが出てきた。
ショーツやブラもあった。
 
「さすがに下着はちょっとなぁ…。」
 
少女はそう思ってTシャツとジーパンだけ持って部屋を出た。
 
バフッ
 
突然、バスタオルが飛んできた。
 
「風呂入るならそれを使え。」
男はぶっきらぼうにそう言い、コーヒーを飲んでいた。
 
 
少女は脱衣所で鍵を閉めようか迷った。
「なんか信用してないみたいで失礼かなぁ・・・。」
 
迷ったが一応、鍵を掛けておいた。
 
2日振りの風呂は気持ちが良かった。
他人の家だと思うと落ち着かなかったが、それでもサッパリした。
 
 
部屋から持ってきたTシャツとジーパンに着替えて風呂を出ると男はスーツに着替えていた。
 
「ココに金を置いておく。必要なものはコレで買え。」
 
テーブルには5万円置いてあった。
 
「他人の下着はイヤだろ。それにうちは俺一人。ナプキンもねぇしな。」
「え、でも悪いよ。」
 
「別にいい。やるよ。返す気があるんだったら死ぬまでに返せ。」
「・・・。」
 
「俺は出掛ける。鍵はこれだ。夕方までには家に帰って来い。
 じゃねえと俺が家に入れねぇ。ついでに合鍵を作っておけ。じゃあな。」
 
男はそう言って家を出た。
 
「こんなにしてもらっていいのかなぁ…。」
少女は呟いた。
 
昼になって少女はその5万円を持って買い物に出かけた。
 
駅ビルで下着や歯ブラシなど、生活に必要なものを買い揃えた。
色々と買い揃えて他に必要なモノを考えていた。
 
すると、地下の食品売り場から焼き立てのパンの匂いがしてきた。
少女のお腹がグーと鳴った。
昨日から何も食べていない事を思い出した。
少女はパンを買って食べる事にした。
 
公園でパンを食べながら少女は今朝のやりとりを思い出していた。
 
「夕方には帰ってくるって言ってたなぁ。晩御飯とか作って待ってようかな。」
 
少女は商店街で材料を買って料理をする事にした。
 
「合鍵も作らなくちゃ。」
 
『同棲みたい』と思うと少し気恥ずかしくなった。
 
 
夕御飯を作り終えると、時計は6時を回っていた。
少女はソファーの上に座って待つ事にした。
 
居間にはソファーとTV、そしてテーブルが置いてあるだけだった。
男の一人暮らしにしてはやたらと小綺麗だな、という印象を受けた。
 
少女はソファーに座ったままウトウトしていつしか眠ってしまった。
 
「オイ、起きろ。こんなトコで寝てると風邪引くぞ。」
 
気が付くと男が目の前に居た。
どうやら寝てる間に帰ってきたらしい。
 
「あ、ゴメンなさい。眠っちゃってた。」
「いや、疲れが出たんだろう。構わねぇよ。でも鍵くらい掛けとけ。不用心だろ。」
 
「あ、鍵を掛けるの忘れてた。ゴメンなさい。」
「まぁウチには取られるものも無いけどな。」
 
「あ、そうだ。御飯作ったの。一緒に食べて。」
「そうか。じゃあ飯にするか。」
 
二人で御飯を食べた。
少女は自分の作った料理が男の口に合うかどうか気になって男をじっと見ていた。
 
「ん?美味いよ。」
少女が聞くより早く男は答えた。
 
「どうして私が考えてる事がわかったの?」
少女は不思議に感じた。
 
「一人暮らしの男に飯を作ってやった女はみな同じ表情をするからさ。」
「そんなに色んな女の人に作ってもらったの?」
 
「そうだよ。」
「遊び人なの?」
 
「どうだろうな。」
「私も遊びの女にしようとしてるの?」
 
「子供が何を言ってんだか。」
「子供じゃないよ!」
 
「俺から見れば子供だよ。オイ、合鍵作ったか?」
「・・・作った。」
 
「じゃあ寄越せ。そうだ、おまえの部屋に内鍵付けといたから。」
「えっ?いつ?」
 
「おまえがヨダレ垂らして寝てる時。」
「垂らしてないもん!」
 
「冗談だよ。片付け頼む。」
男はそう言って自分の部屋にさっさと引き揚げて行った。
 
「もう!」
 
少女はふくれっ面で洗い物をした。
 
 
更新:2004/07/28


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