小さい頃、うちの兄貴が光栄のファミコン「三国志」を買ってきた。
俺はしょっちゅう兄貴と一緒にそのシミュレーションゲームで遊んでいた。
今でこそ「三国無双」などが流行って三国志も大衆に馴染み深くなっているが、
当時は誰も三国志に興味を持ってくれなかった覚えがある。
かくいう俺も三国志をファミコンで初めて知ったのだが。
さて、シミュレーションゲームではやはりその人の個性が出る。
俺と兄貴はそのゲームの仕方が全く違った。
俺はウリャウリャ型。
兄貴はコツコツ型。
俺はひたすら強い武将を集める事に専念し、弱い武将は一切使わない。
兄貴は地味な武将も有効に使う。強いとか弱いとかにはあまり拘らない。
俺はひたすら戦争をする。
兄貴はひたすら国を豊かにする。
俺は一つの所に留まらず、空白の土地にあるわずかな物資も持ち去って移動する。
兄貴は一つの所に腰を据え、じっくりとその土地を豊かにしていく。
俺は戦争に出すベストメンバーだけで構成する精鋭部隊の国と、
君主とその他のザコだけでテキトーに過ごす国を作る。
場合によっては全員を一国に集めて行動する。
兄貴は文武のバランス良く武将を配置した国を複数作り、
どの国にも末永く使えるように土地を耕し治水工事をする。
俺はすぐに金を使い果たすので、春と秋になる直前に空白地に武将を配置して、
その土地の年貢を受けたら反乱が起こる前に全部持ち去る。
兄貴は金に困る事も無く、自分の国の年貢と米の売買の相場を読んで蓄えを作っていく。
場合によっては俺に荒らされた土地もキレイして住民に施しをしたりする。
俺のやってる事はほとんど賊徒。
兄貴のやってる事は領主の鑑。
俺はすぐに同盟を破棄して兄貴の国に攻め込む。
場合によっては兄貴の元から交渉に来た武将を捕らえたりする。
裏切りに美学を感じていたのだ。
兄貴もそういう事をやられていると「同盟を破棄して攻めるぞ。」と脅す事がある。
「おまえが交渉に送った武将を捕らえるぞ。」と脅す事もある。
だが、そう言ってきても俺が泣き落としで、
「やめて下さいよダンナ〜。どうかこの通り。もう悪い事は致しません。」
と言うと、すぐに「しょうがねぇなぁ。」と見逃してくれる。
俺は危機が過ぎると「ふっふっふ。おまえも甘いヤツよのう。」と笑う。
兄貴は「おまえは自分が不利になるとすぐにゲーム放棄するからな。」とたしなめる。
俺は兄貴が他国に攻められているとこの時とばかりに攻め込む。
兄貴は俺が飽きっぽい事を知っているので俺が死にそうになると援軍を出してくれる。
場合によっては金や米を無償で贈ってくれる事もある。
最終的にいつも勝つのは兄貴だった。
俺は一度でも戦いに敗れるとすぐに総崩れになる。
そして一年中戦争をしているので軍資金も兵糧もすぐに尽きる。
兄貴は一度戦いに敗れてもすぐに体勢を立て直せる。
一年中土地の開発や治水工事をし、住民に施しをしているので金や米は有り余っている。
俺は敗戦しても帰る土地が無い。
とりあえず空白地に逃げるものの、すぐに住民の反乱と川の氾濫に見舞われる。
兄貴は敗戦してもすぐ近くに豊かな自国がある。
イナゴと疫病に見舞われてもすぐに立て直せる。
さて、それから時は流れて。
俺は20歳の時にホストになった。
兄貴は20歳の時に東大生になった。
「三つ子の魂、百まで」とはよく言ったものだ。
俺はウリャウリャに生き、兄貴はコツコツ生きている。
兄弟の仲が良いのも昔と変わらない。
俺は二人とも個性的で素晴らしい男になったと思い、満足している。
これから先、兄貴が困った時は俺が金や米を贈ってやろうと思っている。
いや、やっぱり世話になる確率の方が高そうだが。(笑)
2004/06/11
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