男は言った。
「俺と一緒に来いよ。」
女は言った。
「…アンタは何人もの女を騙してきたんでしょ。」
男は言った。
「あぁ、昔はそういう事もした。」
女は言った。
「私はそんな男に付いて行くバカ女じゃない。」
男は言った。
「オマエだけは特別なんだ。」
女は言った。
「口で言うのはタダでしょ。」
男は言った。
「そんな寂しい事を言うなよ。」
女は言った。
「今まで、その言葉を信じて付いて行った女がアンタに騙されてボロボロになったんでしょ。」
男は言った。
「今の俺は違う。本気で言ってるんだ。」
女は言った。
「帰って。」
男は言った。
「どうすれば信じてくれる?」
女は言った。
「じゃあどれだけ愛してる?」
男は言った。
「オマエが居なけりゃ生きてても意味が無い。死んだ方がマシ、と思うくらい。」
女は言った。
「口だけなら何とでも言えるって言ってるでしょ。」
男は言った。
「本心で言ってるんだ。」
女は言った。
「じゃあ死んでみせてよ。」
男は短剣で自分の腹を突き刺した。
男は膝から崩れ落ちた。
腹からは大量の血が流れ出ていた。
女は叫んだ。
「どうして?どうしてこんな事を!」
男は呻いた。
「…オマエが居ない世界なら生きてても意味が無いだろう。」
女は泣きながら言った。
「ゴメンなさい!私、怖いの!人を好きになって裏切られるのが怖いの!」
男は呟いた。
「…最後に本当のオマエが見れて良かったよ。やっぱオマエはイイ女だ。」
女は言った。
「イヤだ!死んじゃイヤだ!」
男は声を絞り出した。
「これで死ぬんだったら、オマエとは結ばれない運命だったって…諦めも付く。」
女は通りに飛び出して叫んだ。
「医者を!誰か医者を呼んで!あの人を死なせないで!」
通りを歩いていた男が「俺は医者だ。」と名乗り出た。
事情を聞いた医者はすぐに家の中に入り、女に殺菌のための湯を用意させた。
そして治療の邪魔になるから、と女を外に追い出した。
女は庭先で泣きながら天に祈った。
傷一つ無い男の腹に大げさに包帯を巻きながら『医者』は言った。
「今回は早かったな。意地っ張り相手の仕事はラクでいい。」
2005/02/05
|