俺のたわごと

ま、たわいのないことばっか書いてますけど暇なら見てね。
日々の考え事、昔の事などが書いてあります。

 331   Deleter
 
彼は幼い頃からその能力を持っていた。
最初にその能力に気付いたのは彼が5歳の時だった。
 
 
彼が積木で遊んでいると、母親がゴキブリに怯えてキッチンから逃げてきた。
「キャ〜!ゴキブリ、ゴキブリ〜!」
 
彼はゴキブリに向かって手をかざし、「やめろゴキブリ!居なくなれ!」と叫んだ。
するとゴキブリはパッと消え、母親は落ち着いた顔で料理を作っていた。
 
母親に「ゴキブリ消えた…。」と言うと、「ヤダッ!ゴキブリ!?ドコに居るの?」と言われた。
彼は「お母さん逃げてたでしょ?」と母親に言った。
母親は「ん?寝ぼけて夢でも見たの?」と笑った。
彼はわけもわからず茫然としていた。
 
 
(僕が寝ぼけたの?)
 
 
彼自身もその事を夢だったのかと思った。
しかし、外に出てアリに手をかざし、「消えろ」と言うと、アリは跡形も無く消え去った。
近所に住む友達にも見せたが、友達もアリが消えた瞬間にアリの事を忘れていた。
 
 
(居なかった事になるんだ。)
 
 
彼はそれからというもの、ハチに襲われそうになった時や、
ボールが木に引っ掛かってしまった時にその能力を使っていた。
 
 
 
彼が8歳の時、曲がり角で車が飛び出して来た。
車がぶつかりそうになった瞬間、彼は慌てて手をかざした。
車がぶつかるよりも彼が『消えろ』と念じるのが早かった。
車は消えて無くなった。
 
 
 
人を消したのは初めてだった。
胸がドキドキして恐ろしくなった。
真っ青な顔をして家に帰ると母親が心配した。
「どうしたの?気分が悪いの?」
彼は母親にギュッと抱き着いた。
 
「どうしたの?大丈夫?学校で何かあったの?」
母親は彼の顔を見てそう言った。
しかし、彼は「ちょっと甘えたかっただけだよ。」と言った。
 
 
(言っても信じてもらえないんだ。)
 
 
彼はそれからというもの、『能力』を使わなくなった。
なるべく使わないようにしようと決めたのだった。
 
 
 
 
彼は23歳になった。
大学で知り合った彼女と付き合って3年が経っていた。
 
 
いつからか、彼が一人暮らししている部屋に彼女が住むようになっていた。
彼は仕事を始めるようになり、彼女は彼の家から大学院に通っていた。
 
 
 
そんなある日、彼は仕事の途中に家の近くを通った。
『いきなり帰ったら彼女は驚くだろうな。』
彼はそう思い、家に帰ってドアを開けた。
 
 
そして居間のドアを開けると、ベッドに裸の男が居た。
その男の下で裸になった彼女がその男に大きく股を広げていた。
 
 
彼女は彼に気付いて驚いていた。
「あっ!」
 
 
彼はショックを受けた。
「ウソだろ…。」
 
 
その男も彼に気付いた。
そして「あぁ、彼氏?」とニヤけた顔を浮かべた。
 
 
彼は彼女に覆いかぶさっている男に殴りかかって行った。
「俺の彼女に何やってんだテメェ!」
 
バキッ
 
 
彼女は必死で彼を止めた。
「やめて!この人を殴らないでよ!私、この人が好きなの!」
 
 
 
その男は彼が呆然としている隙に殴り返してきた。
「オマエとは終わってんだよ!取られるオマエがバカなんだろうが!」
 
ズドッ
 
男は何度も何度も彼を蹴飛ばした。
 
ドカッ ドカッ
 
彼は壁に何度も頭を打ち付けられ、意識が遠のきかけた。
 
 
彼は男に向かって手をかざした。
 
「消えろ」
 
男は跡形も無く消え去った。
 
 
 
そして、次の瞬間――
 
彼女はいつものようにベランダで洗濯物を取り込んでいた。
彼女は彼が帰ってきた事に気付くと、笑顔で部屋に入ってきた。
「どうしたの?仕事中じゃないの?驚いたよ〜。」
 
 
 
 
彼は少しうつむいて
 
 
自分の胸に手を当て
 
 
こう念じた
 
 
 
 
 
 
 
 
「消えろ」
 
 
 
 
2005/04/20


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