これは俺のたわごと『変なお母さん』シリーズのお話。
まだ読んでない人は先に読んで来やがれってんだ。
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タックンが押入れを開けると、小さい頃の写真が出てきた。
後楽園遊園地でやってる『ヒーロー大集合』を見に行った時の写真だった。
それを見ていると、その時の思い出が蘇ってきた。
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バスに揺られながら、オカンと俺は駅に向かった。
その途中、俺はヒマを持て余してオカンに話し掛けたんだ。
「お母さん、しりとりやろうよー。」
「ゴメンね、タックン。ダルイからまた今度ね。」
「やだやだやだー!しりとりー!」
「タックン、お母さんはしりとりに何ら魅力を感じてないの。わかる?」
「やろうよ!やろうよ!やろうよー!」
「じゃあ、しりとりやりたくなるような誘い方をして。」
「しりとりやろー。」
「そうじゃないの。しりとりの面白さを伝えて、ってことよ。」
「しりとりは面白いよ!」
「面白さが伝わらなーい。やりたくなーい。」
「しりとりってスゴイんだよ!」
「・・・どうスゴイの?」
「わかんないけど、スゴイの!」
「我が子ながらムチャクチャねぇ・・・。」
「しりとりしてくれるママがいい!」
「しりとりしてくれないママはイヤなの?」
「・・・イヤじゃない。」
「あ、なんかキュン来た。タックンはイイ子ね。」
「じゃあ、やってくれる?」
「しょうがないわね。OK、やろっか。」
「やったー!」
「でもね、タックン。ここで魅力的な誘い方を教えておくわ。」
「なにそれ?」
「相手をしりとりしたい気分にさせる言葉よ。」
「教えて!」
「いやー、ダンナに勝てるなんざちっとも思ってないんですがね、
ちょっとアチキに手ほどきをお願いできませんか?」
「・・・そうやってお願いしなきゃいけないの?」
「そうよ。さらに、ここで相手を煽るのよ。」
「煽る?」
「ダンナの腕前見せて下さいよ。まぁダンナぐらいのお方になると、
臆病風に吹かれて逃げるなんて事はないと思いますがね。ヘヘ!へへ!」
「・・・悪者っぽいよ?」
「そう。これがズル賢い悪党キャラの誘い方よ。」
「やってくださいよ、ダンナ!」
「そうよ、タックン!上手いわ!」
「じゃあ、ボクからね!しりとりのり!」
「リカオン!」
「【ン】で終わった!ママの負けだよ?」
「タックン、ママはわざと終わらせたのよ。」
「ウソだー!」
「ホントよ。最初からしりとりをやるつもりなんてなかったもの。フフン。」
「やーいやーい!ママの負けー!」
「このガキャ・・・。」
「ママ弱いじゃーん!へへーン!」
「クッ、いつものアタシのマネまで…。」
「ママって頭悪いね。」
「・・・今のはわざとだって言ったでしょ。じゃあもう1回やってやるわよ。」
「え〜、メンドクサーイ。」
「アンタがやりたいって言ったんじゃないの!」
「タックンはねぇ、しりとりに魅力を感じてないの。わかる?」
「クッ、さっきのアタシと同じセリフを…。」
「やる気にさせれば?」
「・・・やってくださいよ、ダンナ。」
「さっきの悪者っぽい喋り方で!」
「・・・ダンナの腕前見せて下さいよ。ダンナぐらいになると、
臆病風に吹かれて逃げる事はないと思いますがね・・・。ヘヘ・・・。」
「しょうがないなぁ。じゃあしりとりのり!」
「リール!」
「ル・・・ルーレット!」
「トロル!」
「ル・・・ル・・・ルビー!」
「ビール!」
「ル・・・ル・・・ル・・・ルール!」
「ルノアール!」
「ル・・・・・・ル・・・。」
「あら、どうしたの?タックン。」
「ルア・・・ルイ・・・ルウ・・・ルエ・・・ルオ・・・。」
「5秒前!」
「待ってよぉぉぉおお!!」
「4!3!」
「ルカ、ルキ、ルク、ルケ・・・。」
「2!1!」
「あっ!あっ!待って!」
「ゼェーーーーーー・・・」
「ルコ、ルサ、ルシ、ルス・・・あっ!留守番で・・・」
「ロ!!ブブー!はい、死亡ー!はい、終わりー!はい、タックン負けー!」
「留守番電話!留守番電話!」
「もうアウトですー!ヘヘーン、ダッセー!超ダッセー!タックン、ダッサダサー!」
「もうー!お母さんのバカー!」
「バカはタックンですー!しりとり答えられなかったタックンですー!」
「ワーン!!!お母さんのバカー!!!ワーーーー!!!」
「泣いて泣いて・・・男の子は強くなるのよ・・・。」
「おーがーあーさん、ズールーイーよー!!!」
「何がズルかった?お母さんは正々堂々と戦ったわよねぇ?」
「うう・・・答えられなくしたじゃん!【ル】ばっかりにした!」
「それがしりとりってもんなのよ。」
「ズールーイー!」
「そうやって自分が勝てなかったからって相手のせいにするのはいけません。」
「・・・だって悔しいんだもん!」
「【ル】の集中攻撃はいけないなんてルールは作ってません。」
「バカー!」
「バカって言ったらタックンがバカー!」
「そう言うお母さんがバカー!」
「え?なんで?」
「・・・バカって言ったから。」
「最初にバカって言ったのはタックンだよねぇ?」
「・・・違うもん。」
「タックンはウソ付く時、すぐに『違うもん』って言うもんね。」
「・・・ちが・・・!」
「ヘヘーン!また言おうとしてやんのー!」
「わぁぁぁあああ!!お母さんのバカー!!」
「あ、そろそろ着くわよ。」
「わぁぁあぁぁあ!!」
「いつまで泣いてんの?タックン。後楽園ヒーローに会いたくないの?」
「・・・会う。」
「泣き虫は会ってもらえないわよ?」
「・・・泣いてないもん。」
「え?泣いてたじゃん。じゃあ、その涙はナニ?」
「鼻水だもん!」
「やーいやーい!鼻水タックン!」
「わぁぁぁぁああああ!!!」
後楽園遊園地で撮った写真の中の俺は泣き過ぎて目が腫れてたけど、
ヒーローと一緒に写真が撮れて笑顔だった。
俺の写真はいっぱいあったけど、オカンが写った写真は一枚も無かった。
オカンはいつも俺をカメラのファインダー越しに見て笑ってたんだ。
俺の小さい頃の記憶にはいつも俺にカメラを向けて笑ってるオカンがいた。
動物園も遊園地も川遊びもサイクリングもアスレチックも。
オカンはいつも仕事で家を空ける事の多いオトンの分まで、俺と遊んでくれてた。
机の引き出しを開けると、使い捨てカメラが入っていた。
フィルムは残り5枚。
居間に行ってオカンにカメラを向けると、オカンがピースしながらこっち見た。
「ようやくアタシの魅力に気付いたのね、タックン。」
そう言って無邪気に笑うオカンの笑顔はあの日と同じだった。
アンタの魅力ならとっくに気付いてるよ。
いつも笑顔をくれてありがとう、オカン。
2007/11/02
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