俺が家の外に出てタバコを吸っていると、
お菓子の詰め合わせが入っていた缶があった。
その中を覗くと一匹のカナブンがいた。
缶がつるつるして起き上がれないんだろう。
彼はひっくり返ってジタバタしていた。
俺はすぐに彼を拾い上げ、空に逃がしてやった。
こんな事があった直後に、俺はおかしな夢を見た。
バカデカいカブトムシの姿をした昆虫の王が俺の元に挨拶しに来るのだ。
「うちのカナブンを助けていただいて有難うございました。」
深々と頭を下げる虫の王。
俺はすかさずこう言った。
「たまたまそんな気分になっただけだ。礼を言われる程の事じゃないよ。
それに俺達人間が勝手に色々な建物とかを作って君らの生活を脅かしているんだ。
だから感謝なんてしなくていい。彼が入ってしまった缶も人間が作った物だし。」
王はそれを聞いてこう返して来た。
「それでも貴方は恩人です。ありがとう。」
何故、気まぐれで助けただけで感謝されるのか。
俺は小さい頃、虫を1000匹以上殺したのに。
王はそんな事も知らずにその仇である俺に頭を下げている。
俺は言わずに居れなかった。
「俺は昔、カナブンを一日で150匹捕まえた事があるんだぞ。
アリだって巣ごと全滅させたのは一度や二度じゃない。
俺は君らが思っているような人間じゃないんだぜ。」
虫の王はそれを聞くと穏やかな表情でこう言った。
「それでも私は貴方が悪い人だとは思えない。」
負けたぜ。なんて気持ちのいい男なんだ、昆虫王。
「フッ。大した甘ちゃん野郎だぜ。アンタ。」
そう言って俺は笑った。
昆虫王も穏やかな表情で微笑んだ。
そこで夢が覚めた。
今後は無益な殺生を控えようと思う。
あの男の為に。
2003/09/08
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