Saityと一緒にどこかから帰る途中だった。
小さい頃に住んでいた団地の横に通りかかった。
「うわぁ〜、超懐かしいなぁ。」
「ムダに散歩してられねぇわ。明日も仕事だし。」
Saityがそう言い出す事はなんとなくわかっていた。
Saityは自分に興味が無いモノに時間を割こうとはしない。
懐かしさを感じながら、歩いて回りたい俺と、
明日も仕事があるから早く帰りたいSaity。
俺は時間がある。
Saityとメシを食った後に、また帰って来て見ればいい。
「メシでも行こうと思ったけど、時間無くなっちまうな。」
「いや、俺もメシ行こうと思ってた。すぐそこにデニーズがあるから行こうぜ。」
そう言った直後、団地の2階部分に車が突き刺さっているのが見えた。
「アレなんだろ?」
「うぉっ!アレ、フェラーリじゃね?」
車は他の棟にも何台か突き刺さっていた。
ザッと見ただけでも4台。
そのうち2台はフェラーリ、2台は軽自動車だった。
団地を解体している作業員がいたので聞いてみた。
「ここ、解体しちゃうんですか?」
「えぇ、そうなんですよ。」
「寂しいなぁ。昔、住んでたんですよ。」
「そうなんですか。」
俺の思い出話はあんまり興味が無いらしい。
そりゃそうだろうな。
この人はただの解体作業員だもの。
「この突き刺さってる車はなんなんですか?」
「どうも、事業で失敗したらしくてね。」
「あぁ、そうなんですか。」
事業を失敗したからってヤケになって団地に突き刺すか?
車も売ればいいのに。
そんなので返せるレベルじゃないんだろうか。
どうせ捨てるなら、何かパーツを貰って行くべきか。
フェラーリのロゴとかカッコイイかもしれん。
「ロゴのエンブレムもらおうぜ。」
「アルミでしょ。」
Saityのレスポンスは早かった。
すぐにそう返せるという事は、既に考えていたんだろう。
確かに、フェラーリのアルミならジャッキアップしてまで取る価値はある。
相場はわからないが、上手くすれば数十万円になるだろう。
俺らがその辺を歩きまわると、他にも6台ほどの車が並べられていた。
そして、横には同じようにパーツ取りを考えて待っている連中がいた。
「先約がいたみてぇだな。」
「アルミは無理かなぁ。」
そんな話をしつつ、彼らの側に行った。
すると、ヒステリックに喚き散らす女が見えた。
「帰って!これは彼の物よ!あなたたちなんかに渡さないわ!」
どうやら、車の持ち主の彼女らしい。
彼女の取り乱し方を見るに、事業に失敗した男は命を絶ったようだ。
そんな彼女から見れば、俺らのやろうとしてる事は思い出を奪おうとするハイエナ。
とはいえ、そこまでヒステリックにならなくても話せばわかるのに。
「さぁ、帰って!帰ってって言ってるでしょ!」
ヒステリックな女が嫌いな俺はその女を軽くヘッドロック加減に抑えた。
「おまえが悲しむのはわかるが、取り乱すな。不快だ。」
「離して!離してよ!」
「そんな事をしても彼は帰ってこないだろう。」
俺がそう言うと、彼女の抵抗する力が無くなった。
そして、彼女はゆっくりと泣き崩れた。
俺が死んだら、こんな風に取り乱して泣いてくれる女はいるかな。
そんな事を考えながら、その女を見守っていた。
そこで目が覚めた。
2009/03/25
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