穏やかな春の昼下がり。
庭では桜が咲き乱れていた。
「あ〜、平和だなぁ。」
俺は縁側のある和室から庭を眺めながら、
座布団にあぐらをかいてノホホンとしていた。
もう1人誰かが居て、その人と話をしている最中だったんだと思う。
なぜか俺は坂本龍馬だった。
なぜそうなったかはわからない。
なぜ自分でそれがわかるのかもわからない。
その時、突然に新撰組が斬り込んできた。
「うぉぉぉおおお!!!覚悟せぇぇぇい!!!」
生死を賭けた斬り合いが始まり、怒号が響く。
俺はいきなり頭を斬り付けられ、身体も何度か斬られた。
こんな大ケガじゃ出血多量で死んじまうじゃないか。
必死で刀を握り締めた時、ふと思った。
『こんなシーン、歴史上に無くね?』
しかし、敵はガンガン斬り込んでくる。
完全に本気モードじゃないか。
黙ってたら殺られるな。
よく見たら敵は3人。
そして、新撰組じゃないっぽい。
よくわかんないけど、自分は負けない予感がした。
夢の中でこの予感がする時は都合の良い展開になる。
少なくとも、相手との斬り合いには勝てるはずだ。
向かい来る刃を刀で受け止め、弾いて両腕を斬った。
返す刃でもう一人の身体を一気に斬り捨てた。
残るは一人。
…ヤバイな。
コイツは俺と刺し違える気だ。
覚悟を決めた目をしてやがるな。
メンドクセェ。
ヤツは中段の構え…。
振り上げて懐が空いた瞬間に突くか?
ヤツが動いた!
振り上げ…フェイントか!?
ヤツは振り上げる途中で刀を横に返し、斬りつけてきた。
これはもうかわしきれない。
あえて斬らせて油断させよう。
俺はわずかに身を引いた。
ヤツの刀は俺の腕を浅く切り裂いていった。
致命的なダメージにはならないギリギリの深さだ。
これくらいのリスクは払ってやる。
だが、それで終わりだ。
俺の刃がヤツの身体を抜け、血飛沫を上げた。
会心のひと振りだ。
ヤツの身体は左脇腹から右肩にかけて裂け、
ドゥッ、と音を立てて倒れ込んだ。
「フゥ…。」
ひと息ついて辺りを見ると、妻が倒れている。
「まさか…そんな…!」
慌てて駆け寄り、血まみれになった妻を抱き起こした。
「あなた…ごめんなさい…。」
妻は自分の身が長くない事を知っているようだった。
「死ぬな…死ぬな…!」
ただ願う事しか出来なかった。
「私…最後までお荷物だったね。」
「そんなわけないだろう!」
あぁ、ダメだ。
もうおしまいだ。
コイツが死んだらどうやって生きて行けばいいんだ。
「あなたのこと…大好きで…一緒にいられて…幸せでした。」
妻はガクリと頭を垂れて目を閉じた。
「ダメだ…まだダメだ…!起きろ…!」
俺は妻の身体を揺さぶって必死に起こした。
「あなた…。」
妻が再び目を開けた。
「そうだ…起きてろ…。」
そんな俺の言葉を聞いて、妻は残念そうに首を振った。
「もう…逝くね…。」
それが、妻の最期の言葉だった。
「どうして…!!!なんでだよぉぉ!!!うぅ…。」
痛いほどの悲しみは心を握り潰さんばかりに締めつけた。
たまに吹くそよ風は庭に咲き乱れる桜の花びらを散らしていた。
そこで目が覚めた。
「なんで龍馬?全く興味無いけど?」
それが寝起きの第一声だった。
坂本龍馬に興味も無いし、本を読んだ事もない。
新撰組と同じ時代なのかも知らないし、いつ死んだのかも知らない。
奥さんがいたのかどうかも知らない。
なんでこんな夢を見たんだろう。
2007/05/07
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