「オマエのバイトは俺が探してやる。」
家に帰ってきて居間のソファーに座り、タバコの煙を吐き出しながら男は言った。
「でも、お仕事あるのに悪いよ。大丈夫、私一人で探せるから。」
少女は男に気を遣わせまいとそう言った。
「ガキが余計な気ィ回すな。昔、俺が世話になった人がキャバクラを経営してる。
その人に頼めば、自分トコのホステスとして使ってくれる。そこで働け。」
「ホステスなんて無理だよ。私、まだ17歳だし。」
「身分証明の偽造モノくらい簡単に作れる。源氏名で作ってやる。」
「源氏名って?」
「ホステスが店で使う、本名とは別の名前の事だ。」
「なんか芸能人みたいだね。」
「オマエの名前は俺が決める。」
「うん。」
「・・・真理・・・二階堂真理だ。」
「マリ・・・それって昔の女の名前?」
「いや、違う。【真実の道理】を意味する名前だ。」
「真実の道理・・・?」
「永遠に変わらない正しい物事の筋道って意味だ。自分に正しく生きろ。」
「どうして【二階堂】なの?」
「二階堂は俺の源氏名だ。オマエは俺の家族だから同じ姓を名乗るんだ。」
「家族・・・。」
真理は嬉しかった。
自分が男と同じ苗字を使う事、そしてそれは家族の証だという事が。
「明日中に電話しておく。今日は疲れたから眠るよ。」
「うん、わかった。ありがとう。」
「おやすみ。」
「あっ、ちょっと待って!」
「なんだ?」
「下の名前は何ていうの?源氏名でもいいから教えて。」
「京也。」
「・・・京也。おやすみ、京也さん。」
京也はフッと笑い、自室に入っていった。
「京也・・・二階堂京也・・・。」
真理は源氏名でも男の名前を知る事が出来て嬉しかった。
その夜、真理は自分の源氏名を覚えるため、チラシの裏に繰り返し名前を書いた。
「二階堂・・・真理・・・」
そして鏡の前で客に挨拶をする練習をした。
「初めまして。二階堂真理です。よろしくお願いします。」
真理は恥ずかしくなって照れ笑いをした。
2006/11/19更新
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