歌舞伎町ラブストーリー


 10   第10話
 
「オマエのバイトは俺が探してやる。」
家に帰ってきて居間のソファーに座り、タバコの煙を吐き出しながら男は言った。
 
「でも、お仕事あるのに悪いよ。大丈夫、私一人で探せるから。」
少女は男に気を遣わせまいとそう言った。
 
「ガキが余計な気ィ回すな。昔、俺が世話になった人がキャバクラを経営してる。
 その人に頼めば、自分トコのホステスとして使ってくれる。そこで働け。」
「ホステスなんて無理だよ。私、まだ17歳だし。」
 
「身分証明の偽造モノくらい簡単に作れる。源氏名で作ってやる。」
「源氏名って?」
 
「ホステスが店で使う、本名とは別の名前の事だ。」
「なんか芸能人みたいだね。」
 
「オマエの名前は俺が決める。」
「うん。」
 
「・・・真理・・・二階堂真理だ。」
「マリ・・・それって昔の女の名前?」
 
「いや、違う。【真実の道理】を意味する名前だ。」
「真実の道理・・・?」
 
「永遠に変わらない正しい物事の筋道って意味だ。自分に正しく生きろ。」
「どうして【二階堂】なの?」
 
「二階堂は俺の源氏名だ。オマエは俺の家族だから同じ姓を名乗るんだ。」
「家族・・・。」
 
真理は嬉しかった。
自分が男と同じ苗字を使う事、そしてそれは家族の証だという事が。
 
「明日中に電話しておく。今日は疲れたから眠るよ。」
「うん、わかった。ありがとう。」
 
「おやすみ。」
「あっ、ちょっと待って!」
 
「なんだ?」
「下の名前は何ていうの?源氏名でもいいから教えて。」
 
「京也。」
「・・・京也。おやすみ、京也さん。」
 
京也はフッと笑い、自室に入っていった。
 
「京也・・・二階堂京也・・・。」
真理は源氏名でも男の名前を知る事が出来て嬉しかった。
 
 
 
その夜、真理は自分の源氏名を覚えるため、チラシの裏に繰り返し名前を書いた。
 
「二階堂・・・真理・・・」
 
そして鏡の前で客に挨拶をする練習をした。
「初めまして。二階堂真理です。よろしくお願いします。」
 
真理は恥ずかしくなって照れ笑いをした。
 
 
2006/11/19更新


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