歌舞伎町ラブストーリー


 9   第9話
 
狭いフロアは部屋数も限られていた。
【人事・経理部】と書かれた札は容易に見つかった。
 
男がドアを開けると中には7人の社員が居た。
「昨日、バイトの面接を担当した男はどいつだ?」
 
男の言葉に反応し、社員の数人がある中年オヤジを振り返って見た。
そのオヤジは状況を察したのか、表情をこわばらせた。
 
「・・・おまえか。」
 
男は無表情のまま、そのオヤジの髪の毛を引っ掴んだ。
オヤジは小刻みに震えていた。
 
「あいつに何をしようとした?自分の口で言え。」
「ひっ!スイマセン!わ、私は・・・。」
 
「何をしようとした?」
「スイマセンでした!どうか…どうか警察にだけは…。」
 
その瞬間、男はオヤジの体を壁に叩きつけた。
そして男はオヤジの腹を2発殴りつけた。
 
「グッ!ゴホッゴホッ!」
オヤジは床に這いつくばった。
 
「あいつに何をしようとした?」
男は這いつくばるオヤジの髪の毛を掴み、再び聞いた。
 
「わ、私はあの子の身体を触りました!」
オヤジは半泣きになり、白状した。
 
「クズが!」
男は机に置いてあったボールペンをオヤジの手の甲に突き刺した。
部屋中にオヤジの叫び声が響いた。
 
「黙れ。」
男はオヤジの口の中に靴のつま先をねじ込んだ。
ウウッ、とオヤジがうめき声を上げた。
 
「この程度で叫んでんじゃねぇ。テメェの痛みなんぞどうでもいい。あいつに謝れ。」
 
男は再び髪の毛を引っ掴み、オヤジの顔をムリヤリ少女に向けた。
 
「謝れ!」
「スイマセンでした!どうか!どうか警察には!」
 
「救えねぇなテメェ。この期に及んでまだ我が身の心配か。」
男はオヤジの腹を蹴り飛ばした。
 
「帰るぞ。」
腹を抱えてうずくまるオヤジを尻目に男は少女にそう促した。
 
 
 
帰り道で男は少女にこう言った。
「悪かった。」
 
少女は不思議そうに男を見た。
「どうして謝るの?」
 
 
「おまえが心細いと感じてる時に一人にして悪かった。」
男は少女の顔を見ることも無く、宙に向かってにそう呟いた。
 
少女にはそれが自分に対しての言葉ではないように思えた。
 
 
更新:2006/10/28


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