歌舞伎町ラブストーリー


 7   第7話
 
「私、絶対諦めないからね!」
 
その日、店は混んでいた。
"店"----男の働くそれはいわゆるホストクラブという形式のモノだった。
 
少女の頬を打った女、紗枝は男の店に来ていた。
 
「紗枝、ボトル空だけど。」
「良いわよ。新しいの入れて。だから話を聞いて。」
 
「イヤだ。オーイ、ニューボトル持ってきてくれ。」
「ちゃんと聞いてよ!」
 
「おまえ、あの子の頬を叩いたんだって?」
「それは…悔しくてつい…。」
 
「言い訳しようってのか?」
 
男の目が冷たく紗枝を見据える。
紗枝の背筋が凍えた。
いつも優しいこの男にこんなに冷たい目で見られるのは初めてだった。
 
「ゴメンなさい…。」
 
男は紗枝から視線を外し、呆れた口調で続けた。
「紗枝はもう少し大人だと思ってたよ。」
 
「ゴメンなさい…。」
「俺に謝られても困る。叩かれたのは俺じゃない。」
 
「あの子にも謝る!お願いだから許して!」
「いや、あの子にはもう近付くな。あの子が怖がるだけだ。」
 
「じゃあ…どうすれば許してくれるの?」
「自分で考えろ。今日はもう帰れ。」
 
「もう私と話したくない?」
「いや、今日は金持ちのうるせぇババア客が来るんだ。」
 
「…わかった。今日はもう帰るね。」
「あぁ。」
 
紗枝が会計を済ませた後、男は店の入り口まで紗枝を見送った。
 
「じゃあまた来るね。」
「…気を付けて。」
 
紗枝が路地を曲がり、見えなくなった。
男はタバコに火を付けた。
 
「あら!表に居るなんてちょうど良かったわ!」
 
男が声のする方を振り返ると、そこには厚化粧で派手な格好をした中年女性が居た。
とっさに男は笑顔で応ずる。
 
「綾子さんをお迎えしようと思いまして。外で待ってたんです。」
「まぁ、嬉しい。今日もピンドン入れちゃおうかしら。」
 
「いつもありがとうございます。先月も綾子さんのおかげで助かりました。」
「いいのよ。気に入った子をずっと置いておくからにはお金使わないとね。」
 
「テーブルの用意も出来てます。行きますか。」
「今日はずっと付いててくれるんでしょうねぇ。」
 
 
「いらっしゃいませ〜!」
スタッフの掛け声が店中に響き渡った。
 
 
更新:2006/09/26


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